MATHOM-HOUSE presented by いもたこ

気になったことを色々と。ジャンルも色々。

特別お題「おもいでのケータイ」

特別お題「おもいでのケータイ」

 

――狭い階段を、軽快な音と共に跳ね落ちていく携帯電話を見つめながら、松葉杖の私は情けない声を出すことしかできなかった。

 

auの企画でこれはどうなのかという話にはなるが、私のおもいでのケータイは、綺麗なトルコブルーをしたsoftbankのPANTONEである(勿論、現行モデルではない)。というのも、これが私が最初に手に入れたケータイであり、そして唯一のガラケーだったからだ。

 

私がPANTONEを購入したのは2007年の12月だった。翌月に学習塾への入塾が決まり、連絡手段が必要だったからだ。確か本当は黒か何かが欲しかったのだが、田舎の店舗だったということもあり、トルコブルー(という名前だったかはよく覚えていない)しか在庫がないと言われたので、否応なしにその色を選んだ。パスロック機能もついていない、質素な機種だった。

クラスでは、携帯電話を持ったのは遅い方だったと記憶している。

 

そして翌年の夏、事件は起きた。

 

きっかけは、初夏に私が(当時受験生だったにも関わらず)部活中の事故で足を骨折して松葉杖になったことからだった。文化部所属だったのだが、遠征先で階段から転落したのである。

とはいえ受験生の夏は天王山である。部活動は湿布とギプスで持ちこたえ、塾は松葉杖で通った。塾の階段は狭く急だったということもあって、仲間や先生に荷物を持ってもらったり、時にはおんぶしてもらいながらなんとか通っていた。

そんなある日の帰り、松葉杖にも慣れてしまった私は、いつものように松葉杖で階段を降りながら携帯電話をかけるという暴挙に出た。これはやってみれば分かるが、松葉杖を脇に挟めば不可能ではない。

そして――お察しの通り私は見事にバランスを崩し、携帯電話と松葉杖を手放してしまった。

 

滑り落ちる松葉杖。そして、吹き飛ぶ携帯電話。

何度か階段上で跳ねながら、そのまま墜落していった。

 

できうる限り急いで追いかけると、携帯電話は閉じた状態で床に転がっていて、横にバッテリーの蓋が落ちていた。

 

携帯電話は無事だった。だが、バッテリーの蓋の爪を損傷したらしく、どう頑張っても閉じなくなってしまった。修理に出したいが、当時の私はお金がなかったので、仕方なくテープで蓋を固定することにした。情けないが、仕方がなかった。

 

そしてそれから、更に2年が経った。

 

松葉杖の受験生だった私は、高校2年の冬を迎えていた。テープで留めた携帯電話は結局そのままで、携帯電話の持ち込みが可能な学校に進学していたので、毎日私と一緒に通学していた。

そんな頑丈だった携帯電話が、修学旅行を1週間前に控えたある日、突然動かなくなったのである。

 

私は修学旅行では班長を3つか4つ兼任していた。もし、修学旅行中に壊れていたらと思うと、本当にぞっとする。

私は急いで新しい携帯電話――当時まだそれほど知名度のなかったiPhone――を買って修学旅行に出かけた。当時、クラスでスマホだったのは私を含めてふたりきりだった。

 

それから6年以上が経って、iPhoneももう3台目か4台目になる。相変わらず私は不器用なので、画面を割ってしまったこともある。

だが今でも、歴代すべてのiPhoneにトルコブルーのケースをつけているのは、頑固で偉大だった初代の名残、というわけである。

 

 

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